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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)58号 判決 1957年12月06日

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人佐生英吉、同鎌田英次、同並木俊守の上告理由について。

原審は、本件における訴外岩手殖産銀行(委託銀行)と上告銀行(受託銀行)京都支店との間の電信送金契約をもつて、いわゆる第三者たる被上告人(送金受取人)のためにする契約たる性質を有するものと解し、被上告人は、受託銀行に受益の意思を表示することにより、原則として受託銀行に対し直接送金の支払を請求し得るものとした。しかし、電信送金契約は、送金依頼人と委託銀行との間及び委託銀行と受託銀行との間にそれぞれ取り組まれているのであるから、それらの契約が第三者たる送金受取人に直接権利を取得させる趣旨を内容とするものであるか否かは、当事者間の意思解釈の如何によることであつて、これがためには、電信送金の取引の実情を検討することが看過されるべきでない。すなわち、まず、銀行間で取り扱われる電信送金契約についていえば、周知のように銀行間においては、あらかじめ相互間に締結してある電信為替取引契約に基づいてなされているところであり、本件においても、委託銀行受託銀行間の電信送金契約が、両行の間にあらかじめ締結してある電信為替取引契約に基づいてなされたことは、原審も認め被上告人も争わないところである。それ故、右電信送金契約が第三者たる送金受取人に直接権利を取得させる趣意のものであるか否かを判断するについては、右基本契約たる電信為替取引契約を如何に解釈するかが重要な関係をもつものといわなければならない。又、これを本件送金依頼人と委託銀行との間の電信送金契約についてみても、その法律上の性質は、右電信為替取引契約との関連においてでなければ第三者たる送金受取人のためにする契約と解するか否かを判断し得ないものといわなければならない。けだし、送金依頼人においても、特別の事情のない限り電信為替取引契約に基づいてなされる委託銀行受託銀行間の電信送金契約を利用するにとどまることを通例とするからである。

してみると、原審のように、単に電信送金が送金依頼人において送金受取人に対して迅速且つ確実に送金する目的を達するために設けられた制度であるからという理由で、本件電信送金契約をもつて第三者たる送金受取人のためにする契約たる性質を有するものと即断することは許されないものというべく、すべからく本件電信送金契約の基本契約たる電信為替取引契約の内容について検討を加うべきは勿論、送金依頼人が、委託銀行に対し本件電信送金の取組依頼をするにつき、特に第三者たる送金受取人のためにする趣旨を表示したか否かについても判断がなされるべきである。しかるに、これらの点については、何等原審の検討判断しないところである。されば、原判決には審理をつくさなかつた違法があり、破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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